| |
1.はじめに
製造現場はますます情報化が進み、ERP、MESという言葉が注釈なしに使われるようになっている。しかしながら可燃性物質を扱う化学工場においては「防爆の問題をどう解決するか」が一つの大きな課題になっている。ここではタッチパネル付き表示器(以降タッチモニター)を主体にした防爆形HMIについて紹介する。
1)PLCのHMI プログラマブル表示器
PLCのHMIとしてプロセスのディスクリート信号、アナログデータを表示・設定が出来る。押しボタン、ランプ、数値表示、データ設定器、メーター、グラフ表示器等が部品として準備されており、画面上に配置するだけで操作パネルが出来上がる。
2)PCのHMI(KVM-Extender形)
PCのHMIとしてモニターとタッチパネルを防爆形1ボックスにして、防爆形キーボード&マウスを接続可能にした。PC本体から100m以上離れたところでPCの操作を行う事が出来る。
3)PCのHMI(Thin-Client形)
前項の防爆形HMIの機能をWindowsのターミナルサービスを使って実現するPCを内蔵した防爆形タッチモニター
2.防爆形プログラマブル表示器
従来から制御系PLCのHMIとして10.4型防爆形プログラマブル表示器「EXGP-シリーズ」を開発・販売してきたが、今般12.1インチのアナログ抵抗膜方式のタッチパネル付きプログラマブル表示器「EXGP-3600」を開発した。図-1に防爆形プログラマブル表示器EXGP-3600の外観を示す。
母体となる表示器(デジタル社製GP-3600)の特性をそのまま活用出来るように、極力防爆構造故の制限事項をなくした。非防爆エリアで使用している作画ツールやデータをそのまま転用・活用が可能。

図-1 防爆形タッチパネルEXGP-3600
|
本機種の機能的な特色・特徴は母体となるプログラマブル表示器を参照していただく事とし、本機の特質を以下に記述する。
1)Ethernet経由で画面データやシステムの転送が出来る。防爆現場にPCを持ち込むことなく画面メンテナンスが非防爆エリアのPCから可能。
2)パソコンの画面を表示・操作が可能(RPA:Remote PC Access機能)。これによってMES用PCの画面(例えば生産指示)を制御系のタッチパネルEXGP-3600に表示し、工程歩進を直接PCに入力するようなシステム構築ができ、防爆現場にMES用の防爆HMIと制御用の防爆HMIを個別に配置する必要がなくなる。図-2にRPA表示画面の例を示す。
|
図-2 RPA画面
| |
3)防爆形アクセスポイントを開発し、無線LANによる通信が可能となった。電源をコンセントに接続することにより無線LANでデータ交信ができるため、必要な場所にHMIを移動しての操作も可能になる。(図-6 参照)
4)アナログ方式のタッチパネルは、「2点押し」した時に中間点が動作してしまう問題があるが、これを解決した。2点押し時はタッチ操作をキャンセルする。
アナログ方式のタッチパネルは、画面サイズに関係なく共通の信号処理が可能となるためタッチパネルの防爆化を進める上では、非常に好都合で1機種の本質安全保持器(バリア)が画面サイズに関係なく適用できる。今後中型(7.5型)から大型(15型)表示器までバリエーションを増やして行きたいと考えている。
3.管理系 PCの防爆形HMI
PCを防爆エリアに設置出来れば非防爆エリアと同じシステムを構築出来るが、PCを防爆化するには防爆技術面だけでなく保守対応面でも様々な問題が発生する。弊社では防爆形パソコンの開発をやめ、現場で必要なHMI部分のみを防爆にする事にしたが、一般的にはPC本体とモニターやキーボードケーブルの延長距離は最大でも5m程度である。この延長距離を100m以上確保する手段が必要で、その違いによる防爆形HMI2機種を以下に紹介する。防爆形タッチモニターの外観を図-3に示す。
以下に紹介するKVM-Extender形防爆タッチモニターもThin-Client形防爆タッチモニターも耐圧防爆容器は同一である。
|
図-3防爆形タッチモニターEXDP/EXPCシリーズ
|
| |
3.1 KVM-Extender形防爆タッチモニター
KVM-Extender(K:Keyboard、V:Video、M:Mouse信号延長器)を応用した防爆形操作端末である。KVM-Extenderは K.V.M信号を長距離伝送可能な信号に変換して伝送後、受信側(Receiver)で元のK.V.M信号に復調する装置である。伝送路は一般的なLANで使用されているUTPケーブルである。K.V.M.信号を長距離伝送するための専用の信号処理を行っており、ケーブルの特性やケーブル長による画質の変化を自動チューニングする機能を備えている。また専用の信号形態であるためにセキュリティー上の問題も無い。
防爆端末は、KVM-Extender(Receiver)と17型SXGAモニター、タッチパネルによって構成される。Receiverには、Keyboard、Mouse信号も延長されているのでコンソールすべてを現場に移行できる。当然ながら非防爆エリアのPCコンソールでも操作可能で、パネル室と現場の双方で監視操作ができる。
現場操作主体のバッチプラントにおいては、PC本体はキャビネットに収納し、メンテナンス時のみLocal側のKeyboard、Mouse、Monitorを接続する事例も多い。
本稿は2007年『計装』8月号で紹介したEXDP-2170と基本仕様は同一であるが、更に機能アップしたEXDP-3170(延長距離120m/PS2 KB&Mouse対応)とEXDP-3172(延長距離300m/PS2 or USB KB&Mouse対応)の2機種を開発した。EXDP-3172のシステム構成を図-4に示す。両機種とも防爆形スピーカ用のI/Fを装備し、一層PCアプリケーションの防爆現場への適用が容易になると確信している。特にDCSのオペレーション端末としてのニーズはほぼ満足できるのではないかと考えている。
防爆スピーカについては後述(図-7参照)する。 |
| |
図-4 KVM-Extender形EXDP-3172のシステム構成
|
| |
3.2 Thin-Client形防爆タッチモニター
前述のKVM-Extender形モニターは、ハード的な接続のみでもシステム構築ができる。タッチパネルを使用しなければOSにも依存しない。反面、専用の信号伝送であるため拡張性には乏しい。工場内の配線路についてもノイズ対策のために光ファイバー回線化のニーズがあるが具体的な対応策がなかった。そこでKVM-Extenderの代わりにWindows XP Embedded PCを収納したThin-Client(シン-クライアント)形のHMIを開発したので紹介する。
Thin-Clientとは、Webブラウザなど必要最小限の機能しか持ち合わせておらず、クライアント側からキーボードやマウスの入力情報をサーバ側に送り、サーバ側でアプリケーションを実行させる。従ってThin-Client PCにはアプリケーションをインストールするための大容量の記憶装置やアプリケーションを実行するための高性能なCPUが不要である。
Thin-Clientシステムで身近なものにWindows XP Professionalに標準搭載されている「RDP:Remote Desk Top」がある。本Thin-ClientシステムもRDPの使用を前提としている。Windows XP Pro.のRDPでは、ライセンス上1ユーザーに限られるが、2003-Serverの様なマルチユーザーOSでは、複数ユーザーがログイン出来る。
工場で稼働するPCには耐環境性や停電等に対する対策が必要になるが、適用するThin-Client PCは大容量の記憶装置が不要なためHDDレス、ファンレスで動作する。又シャットダウン処理無しに電源断が可能なEWF(Enhanced Write Filter)機能を装備している。内蔵PCの仕様を表-1に示す。
図-5にシステム構成を示す。
|
| |
| OS |
Windows XP Embedded SP2
EWF付き |
| CPU |
AMD Geode LX800 500MHz |
| メモリ |
512MB |
| ドライブ |
コンパクトフラッシュ 1GB |
| I/F |
2-USB、1-RGB、1-COM |
| |
*COMポートはタッチパネルに使用 |
表-1 内蔵PC仕様
本システムはEthernetを伝送路とするため様々な適用が可能となる。
|
| |
|
| |
1)UTP/STP回線
最も一般的なUTP/STPケーブルを使用した回線でオフィスと同様にシステム構築が行える。
・延長距離は100m
2)光ファイバー回線 |
| |
図-5 Thin-Client形防爆モニターのシステム構成 |
| |
製造現場において、大容量の電動機、特にインバータモーター等多くのパワーエレクトロニクス機器が存在する環境ではオフィスと同じパフォーマンスを引き出すことは難しいと推定している。そこで光ファイバーにも対応出来るようにTX/FXメディアコンバータを内蔵可能とした。
・100Base-FX/100Base-TXコンバータ
・マルチモード光ファイバー
・ST型コネクタまたはSC形コネクタに対応
・配線距離はmax2,000m
光ファイバーの適用により、配線距離の制約が大幅に緩和される外、ノイズの多い環境への適用も可能となる。
3)無線LAN回線
防爆形のHMIはパネル室と現場操作端との作業者の動線を短縮することで作業効率の大幅な改善が期待出来るが、このHMIを移動式にする事によって更に現場−現場の動線の短縮が出来、作業効率の向上とコストダウンが出来る。そこで無線LANを使用して移動を容易にするため、防爆形のアクセスポイントとメディアコンバータを開発した。
IEEE802.11a/b/g 対応のアクセスポイントを電波の減衰が少ないガラス容器に収納し、耐圧防爆形で防爆認定を取得した。一般的にIEEE802.11a/b/g 機器の通信距離は50〜80mであるがガラス容器での減衰や製造現場環境を考慮してカタログ値は20mとしている。バッチプラントにおいてアクセスポイントから20mの範囲で移動が出来れば現場−現場の動線短縮の目的は達成出来ると考えている。アクセスポイントを復数台設置すればローミング機能によって1階、2階と階をまたいでの移動も可能である。
実際の製造現場では、オフィスのアプリケーションの様に数MBのファイル交換を行う様な事はないため、RDPを使っての動作検証では、画像やキーボード、タッチパネル操作時のストレスはほとんど感じなかった。
実際の製造現場では、単に通信距離の問題だけでなく他のノイズの影響や無線LAN同士の干渉等も考えられるため、慎重な検討が必要と考えている。ただ、PoE機能(UTPケーブルから電源供給)やローミング機能を有している為、導入後のパフォーマンス向上策は、比較的簡単にできる。
注)移動式とはいえ、通常のモバイル機器の様に電池は内蔵していないので、AC100V電源は防爆コンセントから配線する必要がある。
アクセスポイント仕様は以下の通り
・IEEE802.11a/b/g 準拠
・セキュリティー
WEP(64/128/152bit)、AES(128bit)
MACアドレスフィルタリング
・IEEE802.3af準拠のPoE対応ハブから電源供給可能
(増設時にはUTPケーブルから電源供給で電源配線は不要) |
| |
図−6 防爆形アクセスポイント
|
| |
4)RDP機能がないOSに対するThin-Client
以上はWindows XP Proや2003-Serverを想定しての機能であるが、これらのサービスを利用出来ないOS(例えばWindows NT4.0等)においてはその機能を代替えするものとして(仮称IP-Extender)を準備した。KVM-ExtenderをEthernetで実現したものと解釈すると解りやすい。つまりPCのK.V.Mを一旦IP-Extender(T:Transmitter)で受けてEthernetで転送後IP-Extender(R:Receiver)で元のK.V.Mに復元する。伝送路はEthernetであるから前述の光ファイバーや無線LANにも対応する。
IP-Extenderを使用すれば、PCのPS2またはUSB-KB&MouseポートおよびアナログRGBポートにそれぞれK.V.Mを接続するのみでRDP同様のリモート操作が実現出来る。システム構築時PC側の設定や、インストールするソフトがなく、ハード的な接続のみで構築が出来る手軽さがある。これはDCS等に於いては、システムの独立性を保つ上では有意義な方法となる。
4.その他の防爆HMI
防爆エリアでもPCの画面をみてKB&Mouseとタッチパネルで操作が可能になり、「防爆の問題をどう解決するか」についてのツールを提供出来る形になったが、「聴覚」に対するインターフェースである防爆形スピーカがなく、場内放送用の大型アンプやスピーカを使用するしかなかった。2006年に改訂された防爆基準「国際規格に整合した技術的基準対応2006」(略称Ex2006)では音響機器に限り焼結金属が使用出来るようになった。これを受けてPCに接続可能な防爆形スピーカが中村電機製作所殿で開発された。本稿で紹介した防爆形HMI全てに接続可能であり、防爆HMIの質の向上に役立てて頂きたいと考えている。 |
| |
図−7 防爆形スピーカ |
| |
5.おわりに
防爆の製造現場でオペレーションの観点から、防爆HMIの開発を進めてきたが、防爆検定の高いハードルと技術の進歩には悩まされ続けている。今回紹介した商品が「防爆の問題をどう解決するか」に少しでも役立てれば幸いである。
サダノ・メグム
旭化成EICソリューションズ梶@営業部特機グループ
〒108-0075・東京都港区港南4-1-8
電話(03)5462-4613
E-mail:sadano.mb@om.asahi-kasei.co.jp |